■ 取り敢えずは真面目に生きていくことを目標に























「ね、ね、イイ?もう目、開けてもイイ?」
「あーーーもうチョイ持ち・・・・・・・・・・・・よっし・・・・いいぞ?」

洗面台の中に頭を突っ込んで髪を洗われていた俺、さすがにその体勢に疲れを覚えやってくれている相手に声をかける。
ザパザパとかかっていた温めのお湯が、その声とともに止まった。
頭にタオルを被せられて起き上がる。
とたんにバキバキと鳴る背骨。

「ぐあっ!」
「若ーくせに運動不足とはいただけねーぞ?」
「・・・・楓さん?誰が運動不足ですって嘆いてらっしゃるの?」
「・・・・・・・・・お前に限って運動不足はありえねーか・・・・」

くっくと笑いを零しながら髪を拭っていく。
ゴツイ手と強面の人相からは想像できない優しく丁寧に水気を取る。

「いかがなもんですかね?」
「どうかな〜?」

そう言ってタオルを取られて鏡に映った自分・・・・・というより頭、髪に目線がいく。

「・・・・・・・・こんなもん?」
「ってかコレが限度だろう?」

ちょいちょいと引っ張ってみても、自分の毛先の色は変わるわけでもない。
自業自得とはこのことである。

「何回だっけ?」
「ここ一ヶ月で計11回ほど黒く染めましたね、お客さん?」
「ほっほ〜〜!!」
「おめーの場合は、毛根から死んでんだよ、これ以上黒くすんのは無理。」
「死んでるとか言わないで!!・・・・・・ま、しゃーない・・・・諦めましょう!」

そう、かれこれ一ヶ月ほど前から自分の髪を黒く染めているのである。
しかし、今までが今までだったが為に・・・・俺の髪は言うことを聞いてくれず黒く染まってはくれないのだ!

「ま、一日で戻らなくなっただけマシじゃね?」
「マシだな。」

次の日には赤紫に色づき・・・・最悪、元の色に近い色に戻ってしまうのだ。
現在の俺の髪の色、青味がかった黒で毛先に行くにつれ白に近い灰色のなっている。
昔のってか一ヶ月ほど前の俺の髪の色、白に近い金茶。
染めに染め抜いての色である。

「真面目に見えるかしら?」
「お前を知る奴らが今の姿見てもすぐには分からねーだろうな。」
「じゃ、成功と言うことで!!」

予定とはちょっとだけ色が違うけれど、目標には近づいたのでヨシとする!!

「で、お前・・・・ドコの学校行くって言ってたっけ?」
「あ?あ〜〜〜えっと・・・・親父が通ってた学校でさ〜なんつったかな〜・・・・ん〜〜〜??」
「覚えてねーのかよ?」
「ん〜〜〜〜〜〜??」

腕を組んで首を捻って考えていると、呆れたもう一つの声。

「【私立 珀薇-はくび-学院】の高等科よ、バカ。」
「あ〜睦月だ〜」
「よぉ・・・・」

やり手のキャリアウーマンみたいな女が入り口に立っていた。
カツカツとヒールの音を鳴らせて近づいてくる。
俺の髪をくしゃりと撫でながら、

「取り敢えずは染まったようね?」
「取り敢えずね!」
「取り敢えず、な。」
「案内書よ、ちゃんと見て必要なモン揃えなさいよ七緒?」

A4サイズより大き目の水色の封筒を投げてよこされた。
表には自分がこれから通う学校の名前がプリントされている。

「へ〜〜い」
「しっかし・・・・・何でまた急にこんな田舎の学校に行くんだ?」
「何よ・・・・楓、聞いてないの?」
「話し半分しか聞いてない。」

背後から覗き込むように、俺の見ている学校のパンフレットを見る楓。

「えーーーちゃんと聞いてろよな〜」
「で、何で?」
「おう!俺はこれから至極まっとうな生活を送るためさ!!」
「・・・・・まっとう・・・・・・・・七緒が?」
「・・・・・・・・・七緒が、よ。」

楓のびっくりしたような声が頭に落ちてくると・・・・睦月が、疲れたように同意する。
そんな言葉にカチンときますぞ!

「何だよ!俺がまっとうに生活送っちゃダメなんか!?」
「いや・・・・駄目では・・・・・ない・・・・・決して」
「ただ、アンタがそれを言うの?って驚いてるだけよ。」

何だよー!いいじゃねーか別に!!
楓だって睦月だって人の事言えねーくせに!

いやさ?そう言われるのは仕方ないですよ?
俺の日頃の行いを知るアナタ方2人からしたらね?
何せ俺は悪いことの全てを経験してるわけですから、そう言われてしまうのも仕方がありませんよ。
連続2週間警察のお世話になりましたさ、少年院行かなかったのが不思議でならないとはこの事ですよ。
喧嘩もほぼ毎日してました。病院送りにした奴なんて多すぎて顔すら覚えてないさ!
酒もタバコも窃盗も・・・薬はしなかったけど・・・・正直言わせてもらうと運んだり売ったりの手伝いはした、すぐ止めたけどな!
そんな悪い事尽くめの俺ですが、15歳を機に全部足を洗うのさ!!

「清く清々しく生きていきたいのさ!!」
「汚れきっている分際で清くとか言うなよ・・・・・」
「だまらっしゃい!」
「ま・・・・長く続くかどうかの問題でしょうけど。」

痛い突込みを聞き流して、俺は買っておいた眼鏡を取り出した。

「また用意周到な・・・・」
「へっへ〜〜ん!コレで地味なダサい野郎の出来上がりじゃね?」
「本質が派手男のアンタが地味ね〜」
「見えなくも無いが・・・・・」

滲み出てんだよ・・・・・お前の本質はな?
そんな言葉を楓と睦月は飲み込む。

「アンタ・・・・喧嘩売られても耐えられるの?」
「どうにか耐える!」
「どうにかって・・・・血気盛んな時期にそんな無謀な・・・・・」
「ってかさ〜こんな地味ヤローに喧嘩売る奴なんていなくね?」
「いないだろうが・・・・でも、イジメとかの対象になるぞ?」
「イジメ!?ってか苛めるんじゃなくて苛められる側になんの!?俺が!?」
「はい、そんな事で嬉そーにしない!」

でも初めての経験ですぞ!!
いや、苛めたって経験はねーぞ!そんなに俺は心狭き奴でも根性のひん曲がった奴でもないからな!
遠目には見てたのさ!
それを俺が今!

「うお〜〜楽しみじゃ!」
「馬鹿だ・・・・」
「今頃に真実言われても驚きもしないわよ・・・七緒のバカっプリなんて。」

疲れたような2人の溜息。
そんな事気にしてられません!
心はハッピーなライフに一直線さ!

「しかも・・・・珀薇だろ?」
「えぇ・・・あの珀薇よ・・・・・卒業経験者であろう楓なら分かるでしょ?」
「あーーーーマジかよ・・・・・」

急に楓が頭を抱えだした。
何だ?

「何だよ、楓〜?」
「今からでも学校変えられねーのかよ?」
「は?何でだよ?」
「何でってお前・・・・・お前自覚してねーから厄介なんだよ!」
「自覚?自覚って何だ、睦月?」
「七緒・・・・・何でもないわ、アンタに説明しても言い聞かせても理解できないでしょうから。」
「は?訳ワカンネー」

何なんだよ2人して、俺を馬鹿にしてんのか?
ってか俺は変える気はねーぞ?
ってか今更もうドコも受付ねーだろうが・・・・・・・遅いっちゅうーの
ただでさえ俺ってば入学出遅れてんのによ。
いや〜最後の最後でデッカイ乱闘騒ぎ引き起こして、如何せん2ヶ月ほど入院してたんですわ!
なので、卒業式にも出てなければ試験すら受けてないのよ!
そこをどーにかして、親父が母校の理事長に丁寧なお願いをしたって訳さ。
その珀薇の理事長ってのが親父の在学時の後輩らしくって、二言三言でOK貰ったわけ・・・・・真実は違うらしいがね?

「ま、どーにでもなるって!」
「なる訳ねー・・・てか、どーにかの意味が違くなれば、どーにかはなるよ・・・・」
「じゃ、良いじゃん?」
「良くねーから言ってんだよバカ!!」
「ばっ馬鹿って言うなバカ!」
「はいはい、落ちついて。」

しゃぎゃーーーー!って楓に飛びかかろうとするのを睦月に止められる。
てか睦月って、男の俺より身長あるってどういう事!?

「もうこうなったら、なるようにしかならないのよ諦めなさい楓。」
「・・・・・・・」
「そうだぞ〜諦めろ楓〜」

何を諦めるのかはワカンネーけど。

「はぁ・・・・・・何かあったら知らせろよ?」
「ん?・・・・・おうよ!」
「前途多難だわ・・・・」
「俺らがな・・・・」





俺は意気揚々だけどな!!