□ 罰が降る国

















『********!?』
「っ!!」

ガサガサと踏み荒らされる音と何かがすれる音がしたかと思うと、
背後で警戒された意味の分からない大声が聞こえる
急いで立って振り返れば、4.50代の男たちが2人立っていた
自分を見ている
もの凄く見ている
しまこ、凄く驚いた表情で見ている
い、居心地が凄く悪いっ
夜で顔は見えはしないが、どうやら今度は何かを話しながら俺を窺っている

助かった!

普通なら見知らぬ場所でやっと見れた人の姿を知ればそう思うだろう
俺だって思ってしまう
それが友好的に見えなくても
今の俺にはそれに気づかなかった
そう思って、一歩踏み出して声をかける

「すいません」

そう声をかけた瞬間、
いや・・・・俺が言葉を発した瞬間、
まるで俺を不吉な化け物のように怯え声なき声で叫んで逃げ出した
あちらも驚いたなら、俺も驚いた
一歩踏み出したままの格好で、固まり動けなくなる

何だ?
何なんだ??

首を傾げて、普通に立ち姿勢を正す
2人の男が叫んで走り去った方向をボーーっと見ていると、
今度はざっと数えて数十人の男が走って戻って来た

『******!』
『***!!』
『***、***!?』

怒鳴りながら早口に何かを言っている、気がする
言わせて貰うけど自慢ではないが、語学に関しては少しは優秀な方だけれど・・・・・
いくら耳を澄まして注意深く聞いても、
何を言っているのかさっぱり分からない

『*****、*****』
『****』
『****!』
『****、***!』

全然、ホントに何を言っているのか決して理解は出来ないけれど・・・・
こういった時の人の表情とその場の雰囲気は万国共通
見るからに今の自分が置かれている状況が、全然良くない事だけは感じ取れた
むしろすこぶる悪い?


何でかって?


俺の目の前にいる先ほど逃げていった男を含め何人かの男が、
手にした槍みたいなものやら刀の切っ先を向けてジリジリ近寄ってきているからだ


「あーーー・・・・っと・・・・」


もしかしなくても・・・・・・
これは、




ヤバイ?




何て思ったのも束の間、
いつの間に背後に足音もなく回っていたのか?
ガッ背中を打たれ押し倒されて、
勢い良く地面に叩きつけられ手加減なく取り押さえられた
あの、あれのように
よく時代劇の悪役がやられる感じで?てーの、
分かる?
わかるかな?
腕を後ろの腰辺りで押さえられて、膝かなんかで背中やら足を押されてる格好
しかも首は上に向ける感じ
髪を掴まれてね、

まさか・・・・
まさか自分がそんな経験を出来るとは思わなかったし、
こんな経験ならしたくなかった

だって・・・・
こうされるって事は、
何もしてなくたってこの人らにとっては俺は、
悪役とまではいかなくとも、


許されないんだろう?
しかも、
どう頑張っても弁解の余地は無いようだ・・・・・


無理矢理に上体を起こされ、
膝立ちにさせられる


この男たちの中では結構な地位にいるのであろうひげ面のいかめつい男が、腕を組みながら俺の前に聳え立つに
見下ろされるなんて、子供の頃いらいだ

『****、******?』
「・・・・・・」
『****、****、******??』

あーーー
あのですね?
スイマセンけど、
何を言ってるかまったく分からないんですよ?

「スイマセン、言葉が分かりま」

一応、礼儀でもってそう口にするが・・・・・最後まで言わせて貰えず、
咽る事になる
目の前の男が、汚らしいものでも見たかのように俺の腹に蹴りを食らわせて後ずさったのだ

『****!!』

怒鳴り散らす
俺は息が詰まる

「げほっ!・・・・がっ・・・・・・・はぁ・・・・!」

何なんだ!?
一体全体これは何なんだ!?
蹴られるような言葉でも俺は言ってしまったのか?
俺には意味は分からないけれど、もしかして向こうには分かるのか?
いや、その前に俺は失礼なことなで言った覚えはないぞ?

こみ上げる胃液を押し戻して、
鈍く痛む腹を腕を押さえつけられてるが為にさすることも出来ずに蹴った男を見上げると、
その人物は眉を寄せて隣に立つ年若い男に何かを言っていた
言っていたと言うか・・・・
命令をした、そんな感じ


しかも、
きっと・・・・いや、絶対に俺関連
間違いなし、


俄かに周りが動き出す
刀を持った男が俺に近づいてくる


月の光をその切っ先に照らさせて・・・・・



俺を蹴った男が何かを言った瞬間・・・・・・・



その刀は振り落とされた




痛みを感じる前に




目の前が真っ赤に染まる




噴出した
自分の血が目に掛かって、




空を仰向けば




先程よりも




いっそう




月は輝きを増す




血の色に染まって




赤い月が俺を見下ろす