ある晴れた日の青々と茂る庭の横の回廊を、
首都デライト・国王の后であるアリスは、
いつも傍にくっついて(文字通り)歩く護衛二人をお供に歩いていた
その表情はなぜだか晴れずブスくれている
そんな有梨須の顔に、
右隣を歩くてアラシが苦笑を浮かべ

「ご機嫌が芳しくないようですね、アリス」
「・・・・超絶にね!」
「何がそんなに気に入らないの?」

即答する有梨巣に、
ルーカスも同じく乾いた笑いで問いかけた

「お答えしましょう!何でこんな天気の良い日に城の中にいなきゃなんないのさ!?」
「それは・・・・ねぇ?」
「えぇ・・・・アーガス様に説明されましたでしょう?」
「されたけーーどーーも!!」

地団駄踏みそうな勢いで怒るアリスの様子に、
ルーカスはアラシに問いかける
それに頷いて2人は、
朝方自分の上司がこの人物に言った言葉を思い出した

『今日は外から客人が大勢いらっしゃるらしい、と言うか来る。その中には公にはされていないが首都デライトを敵視する国やその座を狙う国もある。だから、だからなアリス・・・・お願いだから今日だけは、ホント今日だけでも良いからっ静かに大人しく冷静に何もせずにしていてくれ、な!?』

懇願と言うか長々と言うかくどくどと言うか・・・・どうんな言葉が似合いそうな感じでアル、
アーガスと呼ばれる彼らの上司である男の言葉だ
そう簡単に何が起こるとは思えないが、
それでも用心に越したことは無い!そう言いたいのだろう
このトラブル発生機でシューターある有梨須は一人で行動しようものなら、
何かしら起こると容易に考え付くからである
その何かしらが小さいことで収まらないのも有梨須ならではである

「アンタらマジで超完璧にムカつくほど失礼!」
「アリス・・・・仕方ないよ・・・・」
「今までの事を考えると・・・・とてもととても適切ですから」
「・・・・・・・」

最強と謳われるアルガーストでも、
そのアルガーストの絶対的な信頼を受ける彼らでも有梨須の起こす惨事には、
さすがに何度もは合いたくはない
すくいようのない苦労を背負い、
大げさなほどの疲労を重ね、
これでもかと神経を擦り減らす
英雄と謳われ最強と畏怖される彼らでさえそう何度もあったら身体が持たないのだ
こんなことが頻繁になるなら戦場で戦っていた方が良いと、
そんな事まで思ってしまうのである

「つまんない、つまんな、つーまーらーなーい!」
「アリス・・・」

駄々をこねるようにいきなり声を荒げる
ジタジタと腕を振り回して

「だってさ〜アルはリズに呼ばれて行っちゃうしさ!リズはリズでずっと何か忙しすぎて全然っ相手してくんないし!!」
「それはそれは・・・・」
「ルーカスもアラシもつまんないし!!」

「それは・・・・・」
「ごめんね?」

そんな言葉に
苦笑しか浮かばない2人だ
むっすーーーーと頬を膨らます様は、
到底この国の后とは贔屓目に見てもまったく思えない
微笑ましく愛らしいその様子に、

「あ〜ぁ・・・・つまんないの、」

しゅんと大人しくなって呟かれた言葉
一瞬だけ外に出してあげても良いかな?何て心が揺らいだ2人であるが・・・・
しかし、そんな事をして後々に面倒になる事は目に見えている
この国の王リズからは強く強く強く念を押されに押され、
アルガーストにはキツク力強く下された絶対的な指令だった

「・・・・・もーいいよ、」

ズンズンと走り出しそうな勢いで前を歩きだす有梨須の様子に、
2人は一瞬だけ目を合わせて苦い笑いと疲れた溜息をこぼしたのだった
それが、
ソレがいけなかった
たった一瞬で、
時間にしても数秒しか目を離していないのに怒り心頭で歩く有梨須の姿が無かったのだ

「・・・・・・ルーカス・・・・」
「アラシ・・・・・・」

ボー然とお互いを呼び合って、ゆっくりぐるりと辺り一面を見渡した
代わり映えしない穏やかな午後の一時がその場に静かに流れている
そして漸く覚り
2人は声を合わせて叫ぶように、

「「しまった、逃げられた!!」」

そう有梨須はその一瞬でどこかへと雲隠れしてしまったのである









■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■








一方その頃、
各国の要人を集め少し騒がしい部屋の光の差す窓際で、リージェイドが小さく溜息をついた
誰にも悟られることの無い筈の溜息を、
極力気配を消したアルガーストが聞きつける

「お疲れのようですね、陛下?」
「ん?・・・・あぁ・・・・・」

隣に立ち小さく問われる言葉に苦笑で返す
さらりとくすんだような綺麗な金髪をかき上げ

「ココ最近、働き詰めで休んでいなくてね」
「そのようですね・・・・アリスが寂しがっておられましたよ?」
「悪い事をしている・・・・会うことも、まして会話も禄にしてやれていない」

部屋に戻るのは有梨須が深く寝入った頃
ぐっすりと眠り込む顔を見れば起こすのもやはり忍びなくて、
それ以上に疲れてしまって自分も隣に潜り込んでささやかな眠りに落ちてしまう
朝だって寝起きの悪い有梨須をそのままに出て来てしまうのだ
これじゃいつまでたっても会えやしない

「ま、この忙しさもあと少しなんだがな・・・・」
「そうですね」

がやがやと賑わう人の輪を遠めに眺めて、リズは溜息をこぼした

「そう言えば、何か変わったことは?」
「特にはなさそうです」
「そうか・・・・」
「注意すべき人間は他の者に付かせてますゆえ」
「分かった」

手にしたグラスを傾けて、離れてしまったその輪に戻ろうしたその時に慌てたように誰かが入ってきた
そちらに目を向ければ見知った人物が近づいてくる
心なしか顔を青褪めさせたルーカスである
その姿を見てリージェイドは首を傾げ、
アルガーストは顔を訝しげに顰めた

「アーガス様!」
「ルーカス、ココで何をしている?」

人前に余り顔を出すな、と言う言葉を含ませて睨み付けると軽く頭を下げてさっそくとばかりに耳打ちをした
その瞬間、
一瞬にしてアルガーストの顔色が変わり、
片手で顔を覆うとガクリと肩を落とした
その行動で何かを悟ったリージェイドは苦笑を零す、

「アリスか?」
「・・・・あの方はっまったく!」
「申し訳ございません!たった数秒で目の前から消えるとは思ってもみなくてっ・・・・」

リージェイドにも深々と頭を下げるルーカスに仕方がないよと首を振る
あらかた予想してた事でもあったのだ
素晴らしき天気の良いこの空を見た時から

「お前たちと【かくれんぼ】はしないと言ってたと思うが?」
「そうなんですけれども・・・・」
「すぐ見つかるからです」

そう、何故だかこの五人にかかれば有梨須がすぐに捕まるのだ
ニトリアスや城の者が散々探し回って探し回って日が暮れてもう駄目だ!って思たその時、
図ったようなタイミングで姿を見せるのである
しかし、ルーカスを初め4人が探し出せば一時間とかからない
そしてアルガーストが探せば動き回らなくともその場に足が向かうのである
よって有梨須はこの5人と【かくれんぼ】などしたくないのである

「逃げられるのも早ければ、捕まるのも早いですからな・・・・」
「どこで見失った?」
「東中庭を抜ける回廊です。」
「「あぁ・・・」」

2人は思わず声をハモらせる
それじゃ逃げるのも仕方ないと思う二人である
有梨須お気に入りの遊び場スペースだから

「ウィル、ジェイク」
「「はっ」」

アルガーストの呼び掛けにどこからともなく2人の青年があらわれる

「お前たちはこのまま陛下のお傍にいろ、注意すべき者から決して目を離さぬように。不審な動きがあれば報告しろ」
「分かりました」
「ルーカスお前は陛下のお傍に仕えていろ」
「分かりました」

有梨須捜索は自分がする、怒りと呆れと疲れを滲ませてアルガーストが言うと
リージェンイドたちはご苦労様と労いの気持ちを込めて見詰めた

「アリスを頼んだよ?」
「勿論にございます・・・・今日こそはっ・・・・今日こそは!!」

一矢報いてやる!的な勢いで説教してやる!そう込めて力強く頷いた
相当な時間の説教をくらうんだろうな〜と心で可哀相かな?そう考えたのだが、
少しくらいお灸を据えないといけないのだろうと、少しだけ心を鬼にして何も言わないことにしたのだった
部屋を出て行く後姿を見送る

「君たちには苦労させているな・・・・」
「一番の苦労を背負っているのはアーガス様ですけれど」
「そのようだな・・・・いつもスマナイね」
「いえ、大変ではありますが楽しいと言うのも可笑しな話しですが、毎日が平凡には終わらないので」

あれといれば、そりゃ平凡には終わらないだろうな〜
そんな気持ちを込めて笑えば、ルーカスも笑みを零す

「アリスは・・・・私たちには素晴らしい方です。あの方のために仕えられる私どもは光栄に思えます」


それは嘘偽りなき思い

何事にも変えられぬ思い


彼の方は


必要としてくれた

手を差し伸べてくれた人、

名前など、

異名など、


ましてや過去など・・・・・


その全てを知っていながら、

私たちを必要としてくれた人

感謝などでは表しきれない、

言葉でなんて語れない



だから、

私たちは

彼の方のためらな

何ら迷いはないのである


その総てに



「アリスの総てに私たちは従うのです。」



彼の方が

望むとも望まぬとも





それが許されざる事だったとしても