■ 京極堂シリーズ  榎木津×関口



無意識に泣く






君は卑怯だ








あれよあれよと連れ込まれた事務所の一室
見慣れたソレ
暑いけれど涼しい風がふわりと頬を撫でて
先ほどのことを思い出す


暑い中をふらりふらりと危ない足取りで歩いていたら、
むんずと犬猫にするかのように掴まれた襟首
びっくりして見上げれば、
目的地にいると思われた榎木津で

『遅い!遅すぎるぞサル!!』

人通り激しい道端で、
人目も世間体も気にする事無く大声を上げる榎さん
目を見開いて見上げれば、
にやりとキレイな顔が歪んだ

『ご主人様が直々に迎えに来てやったんだっありがたく思いたまえ!!』
『っへ・・・・』

荷物のように小脇に抱えられて長い脚を動かして道を行く
びっくりして今の状態を理解しきれない僕は、
ただただ僕を抱えて歩く男を見上げるだけ
周りの好奇の目も気付かなく

そして連れてこられた『薔薇十字探偵社』の事務所
榎木津ヴィルヂング
呆気に取られているところをソファーに投げられて
いらっしゃいと言う和寅君の言葉と差し出された冷たい飲み物でようやっと理解する
今までのことに

「ぅぅう゛」

あまりの恥ずかしさに顔が夏の熱さだけではなく熱が増す
もしかして僕はかなり恥ずかしい状況ではなかったか?
人目が凄くはなかっただろうか?
あんな状態を見てみぬ振りするはずがない!
大人なのに、
僕だってもー大人なのにっ

「そんなっ・・・・ぅうっ」
「コラー辛気臭いぞサル!唸るなっ」
「う、唸りたくもな、なりますよっ」

目の前の重厚な机の上に足を乗っけて器用に怒鳴るソレの持ち主
ドンっと音を立てて足を踏み鳴らす
そのキレイな顔に皺を寄せて

「辛気臭いっせっかくの夏なのにサルのくせに辛気臭くするな!」
「そんな・・・・榎さんの所為じゃないですかぁ」

そうやって人に怒るなら
あんなことしなきゃいいんだ!
何であんな・・・・あんなっ

「は、恥ずかしっ・・・・・!」

両手を覆っていた顔のままにテーブルに突っ伏す
その姿を見ながら榎さんは、
豪快に笑った

「見てみろっ和寅!!サルが人のように恥ずかしがってるぞ!!」
「ひどいぃっ・・・・・!」
「ちょっと、もー」

わっはっはっはっは!
と指差して僕を笑いますます恥ずかしさに縮こまる
その姿を不憫に思ったのだろう和寅が窘めるも、
そんなこと知ったことではない男はますます笑いを大きくしていく

「わっはっはっは!もっともっと恥ずかしがれサル!!」
「う゛ぅぅ・・・・・!」
「先生、気にしないで下さい、ね?」

そんなこと、言っても気にせずにはいられないよ
こんな人の気も知らないで笑い続けてる男が目の前にいるんだから
もうやだ、
理不尽さも、
こんな扱いも慣れてはいるが、
だからと言って強くなるかと言ったらそれはまた別の話しで
酷い扱いに涙が浮かぶ

「榎さんの・・・・ばかっ」
「なにをーーーーサルの分際で神を愚弄するか!!」

言葉ほど怒ってはいないが、
声は大きくなる
サルーーと叫びながら机の上の紙を丸めては僕にぶつけてくる
ぽこんぽこんと当たる紙
痛くはないが惨めさは増す

「・・・・・・ばかぁ」
「っ」

顔だけを少し上げて腕の隙間から未だ紙を投げようとしている榎さんを睨むために見上げれば、
びきんと固まる
投げようとした体制のままに目を見開いた

「どうかしましたか?」

和寅くんがその姿をいぶかしんで、
榎さんと僕を交互に見ようとしたその時

「っだーーーーーーー!!」
「っひ!」
「わっ!!」

いきなり大声を上げたかと思うと、
ばっと机に飛び乗ってそのまま飛び降りる
僕が座っている目の前のソファーを背もたれから長い足で渡って来たかと思うと、

「貴様は今すぐ外へ行くんだ!!」
「はっ!?」
「行けと言ったら行けーーーーーー!!」
「わっ分かりましたよ!!分かりましたからそんな大声上げないで下さいっ」

耳がキンキンするほどに怒鳴られて、
慌てながら和寅君が走って事務所を出て行く
ドアを閉めたかと思うとまた少しだけ開いて

「あ、ついでに夕飯の買い物も行って来ますけど、あんま無理しないで下さいね」
「うるさい!!さっさと行けったら行けっゴキブリ男!!」
「っひゃー!」

バコーーーンと、
ドアに履いていたであろう靴を投げつけるとまたもご近所迷惑なほどの声を上げる
向けられているはずじゃない僕も、
慌てて耳を塞いだ

「・・・・・っ?」

塞いでいたら、
いつの間にか静かになっていて
恐る恐る辺りを見渡してみると
目前に榎さんの顔

「っひゃ!?」

びっくりして身体を離すとずずいっと距離を縮めように迫ってくる
変人だって
もの凄くおかしくたって、
榎さんの顔は世間一般では美形と称される造形で、
そんなのが目の前にあったなら
見慣れてたって
その中身が見合ってないことを知っていたって
驚くわけで・・・・・

「え、えの・・・・さん?」

驚いて
顔が赤くなるのであって・・・・・
じっとりと見詰められれば、
先ほどとは違って意味の恥ずかしさで顔はより赤くなって
無意識に止まったはずの涙が浮かぶ

「・・・・・君は、」
「っへ・・・・?」
「卑怯だ」

そんな僕には意味の分からないこと言ってから、
むむむっとへの字に曲げた口元を引き締める
ついでに眉間の皺が深くなる
お、怒らせたのだろうか?

「っへっと・・・・あの、」
「サルの分際で・・・・卑怯だ」

また同じ言葉を繰りかえされて
怒ったんだ
そう感じ取ると
浮かんだ涙が止めようと思う間もなく零れ落ちた

「泣くんじゃない」
「だ・・・・だって、」
「えぇい!泣くんじゃないったら泣くんじゃなぁい!」

そんな事を言って
がばりと大きな身体が自分に覆い被さったかと思うと
ぎゅうっと力加減なく抱きしめられた

「分かっててやってるのか、関君」
「えっえ!?」
「やってるんだったら、サルにお仕置きだ!」
「うっ!?」

聞き捨てならない言葉に目を剥くも
反論も許されず
抱きすくめる力が増す
息が詰まる
けれど
その抱擁が嬉しくって
背のシャツを握った

「はぁ・・・・・」
「え、榎さん?」

ことりと榎さんの頭が僕の頭によりかかる
落ちてきた色素の薄い髪が耳に触れた

「本当に・・・・手が負えんよ、関君」
「・・・・・?」

疲れたような小さな呟き
意味が分からず
でも離れがたく
そのままの体勢を保つことにした






本当に君は卑怯なんだから!




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榎木津×関っっ
だいすきでっす!!っきゃっほーーーーーーーーい!!
本当に好きさねーー(>艸<*)キャー!!

いいよねーいいよねーvv
本当にいいよねーーーーーvv

ごーーいんぐまいうぇいな自称神の榎さん
そのペット(ぇ)の関君
いじめっ子でも可愛がりたいのさっ
涙を浮かべた関君に上目にされてしまえば戦意喪失な榎さん(笑)
和寅君を追い返したのは、
そんな関君を見せたくなかったからさ!


これにて版権モノは終了!
お付き合いありがとうございました(礼)