■ 有栖川有栖シリーズ  火村×有栖



目が笑ってない







「終わった・・・・・」

目の前の青白い画面には送信完了の文字
漸く出来上がった原稿を担当宛にメールで送信終わった文字
それは、
開放と読む
まごうことなき・・・・・!!

「終わったんやっ」

力なく両手を振り上げる
フン詰まりの三日間だった、
最後の最後で終わり方を変えたのがいけなかった
当初の目的地が
途中の段階で矛盾が生じてしまい
あえなく変更を余儀なくされた
そしたらもー
言葉が出ない・・・・・言葉が!!

「っも・・・・何もできひん・・・・・っ」

ごきりとなる肩と言わず、
背中と言わず、
腰と言わず!!
全身がバキバキと音を立てている

「いぎっ・・・・!」

そりゃそうだ、
トイレと水分補給以外は椅子を降りなかったのだから、
長時間どころかそれ以外の形をとらなかった身体は勿論
他の体制をとろうとするのを拒否するかのように抗議の声をもとい音を立てるのだ

「いつつ・・・・とし、やな・・・・」

自覚したくないのをこんな時に自覚してしまう
いやいやいや、
まだや俺はまだいけるんや!
そんな自己暗示をかけながらパソコンの電源を落とし
しぱしぱする目をこすりながら手元の光を消した

「って・・・・いま、何時なんや?」

暗くなった部屋に机の上を探ると指に当たる冷たい形
手にとって形から携帯と判断して、
折りたたみの画面を開けると

「・・・・午前、3時・・・・」

暗いはずだし、
眠いはずだ

「あかん・・・・」

腹も減ってるが、
そんな事よりも身体は睡眠を欲している
腹は後でも満たされるから今からすぐにでも睡眠をとれ!!と、
悲鳴を上げながら抗議をしている
考えるのを拒否しているかのように眠気で思考が霞む

「さ、さきに・・・・睡眠や、」

ふらりふらりと暗い部屋を辿ってベッドへと辿りつくと、
身体が勝手に傾いた
もーそこからはブラックアウトよろしく、
布団に触れた記憶はない





******





ぴんぽーん・・・・・ぴんぽーーーん、

「んっ・・・・・・」

もぞりと動いて、
夢うつつに耳にしている音が遠くで聞こえる

ぴんぽーーーんっ
ぴんぴんぴんぽーーーんっ

明らかにイライラしている
音がそれを伝えてきている
きっとアレだ、
新聞だ・・・・たぶん、
それか回覧板だ・・・・たぶん

「ぅう・・・・」

薄っすらどうにかして開けた薄目で、
日が昇ったのを理解した
けれど、
脳みそも
身体も
まだ睡眠を欲し続けていて
抗えない

「む・・・・・り、」

2度寝ヨロシク、
もう一度夢の世界へダイ〜〜〜〜ブ
夢に落ちる際に聞こえたのは、
がちゃりと鍵が開かる音





「・・・・・・・・んっ」

自然に意識が浮上
ようやっと睡眠も摂取したらしいと寝すぎて溶けたような脳で理解した
けれど、
暖かい布団の中は抜け出しがたく
もそりもそりと、
布団の中で動く

「んーーー」

まだ夢と現実の中を行き来しつつある頭で
ちょこっと窺えた部屋を見渡す
明るい

「・・・・朝?」

なんやろか?
そう思うも明るさが自然の光ではなく人工的なものだと分かった
部屋が電器で明るい

「何時や・・・」

またも手ぁ繰りで辺りを探って手に当たった携帯を開く

「・・・・20時・・・・48分?」

午後の9時ちょい前と理解
しかも曜日が『Sat』となっていた
土曜?

「え、マジかっ」

土曜!?土曜って・・・・・えぇっ!?
原稿上がったのがたしか木曜の明け方やから・・・・!!

「もったいなっ・・・・」

あかんっコレは寝すぎやろ!?
約三日も寝とったんか自分っ
どうりで頭がぐらぐらするわけや・・・・

「起きな・・・・」

きっとぐらぐらするのは寝過ぎたからだけではなく、
腹が減りすぎてってのも一理だ
考えてみれば水分と流動食よろしくゼリーやらプリンやらしか食ってなかった一週間
腹も減るわ

「ぅううっ・・・・ダルっ」

起き上がって布団の上で一度正座をしてから、
ぐぐっと真上に腕を伸ばして背伸びを一つ
スウェットの下とTシャツだけだったのにパーカーを着てリヴィングへと一歩踏み出すと

「よーーお目覚めみたいだな、作家大先生」
「・・・・・ひ、むら?」

元からこの部屋の住人だったかのようにソファーにどっかり座って、
キャメルをふかす男一人
新聞片手に俺にニヤリと笑う

「な、何でおんの?」
「おいおい、何でとはないだろうが」
「はへ?」
「いっくら携帯にかけても家電にかけても出ないで」

むすりと眉間に皺を寄せて大きく煙を吐き出す
それを横目に見ながらキッチンへ、
冷蔵庫を開けてミネラルウォーターのペットを手に向かいのソファーに腰を下ろす

「原稿に頭悩ませて詰まりに詰まって苦悩の果てに死んだかと思ってな」
「あほかっ!原稿はとっくの昔に上がっとるわ!」
「いつ、」
「・・・・・・も、木曜の明け方、」
「ほーーーイイご身分だな、その日から今まで寝てたのか?客をほっぽって?」
「っぐ・・・・しゃーないやろっそれまで三日貫徹やったんやから!」

ひたりと目を細めて言われればそう言い返すしかなく、
嫌味たっぷりなその言い方に
ムカっとくる
なんや死んだって、
誰が原稿の根詰まりで死ぬかってんだ!
・・・・・あ、ありえそうやけど・・・・!!

「・・・・・・」
「な、なんや・・・・?」

今の今まで調子よく火村の口から嫌味が垂れ流しだったのが、
急に止まる
止まって俺をジーーーーーっと見詰めてきた

「だから、なんやtt」
「お前、」
「?」

穴が開きそうなほどの強い視線にたじたじになる俺を他所に、
火村の先ほどとは全く違う冷たい声

「飯・・・・食ってたか?」
「っは?・・・・・飯?」
「そうだ、飯だ」
「あーーーーーー」

言わんとしてることを察して、
冷や汗がたれる
ヤバイっ
さっき言ってはならんこと口走ってもうた・・・・!!

「三日貫徹・・・・・だと?」
「あ、いや・・・あんなっ」
「挙句に三日爆睡・・・・・?」
「ひっ」

すぅっと細まる瞳、
酷薄な笑み

「作家先生・・・・あれほど言ったのを忘れたのか?」
「ひ、ひ、ひむら・・・・話しを!!!」

ニッコリと笑みを浮かべる火村ほど恐ろしいものはない!
だって目は一切笑ってないのだから!!

「飯も食わず仕事をするなと・・・・・言ったよな?」
「は、はひっ・・・・!」

そうなのだ、
夏の暑い日に仕事の根詰まりで飲まず食わず寝ずの三日間を遣り通した
仕事の成果である原稿は出来上がった
したら次の日には救急車で運ばれた記憶がある
当の本人である自分と、
その救急車を呼んだ本人である火村に
その時の火村の怒りようと言ったらない
怒鳴られるのらいざ知らず、
静かにとても静かに懇々と怒りをぶつけられてのだ
病院のベッドの上に点滴を打たされた状態で

「す、すまん・・・・・!!」
「・・・・・・」
「か、堪忍して・・・・なっ」

あんな叱られ方するくらいなら俺は恥も外聞も捨てて土下座する!!
大人だから何や!?
火村が怒ったら一番怖いってことは俺が知ってんのや!

「・・・・・」
「ひ、火村?」
「はっぁ〜〜〜〜」
「!」

たかがため息
されどため息
びくぅぅっと一震えしてその顔を窺う

「もういい」
「・・・・っへ?」
「取り敢えず飯だ」
「・・・・・く、食わしてくれんの?」
「あほか、そのために来たんだろうが」

はぁぁぁっと先ほどよりも大きく息を吐いて徐に立ち上がる
その姿を目で追って
怒られずにすんだ!?と一安心
た、助かった・・・・・!!

「来たら来たで鍵は開いてるし」
「あ、」
「入ったら入ったで寝てるし声かけても起きないし」
「・・・・すんま、へん」

気まずくなって縮こまれば、
ふっと笑ったような気配

「どうせこの一週間食ってなかったんだろ?」
「めんぼくない」
「雑炊でいいな」
「大変喜んでいただきたいと思います!」

料理名を聞いただけで腹の虫が泣き出した!!
刺激を受ける唾液腺

「ま、その後はここ数週間の俺の欲求を満たしてくれよ、先生」

にやり、笑を一つ
全然助かってへんやん・・・・・!!

「お、お手柔らかに頼むわ・・・・・・」
「気が向いたらな」




気が向くつもりあらへんやろ・・・・・・・・(泣)!!





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大好きなカプです!
ミステリ系では一番かもしれない・・・・・うん、
二番はやはり次の2人ですね、うん
他にも好きなのがいるのですが手がつけられませんです

ひっさしぶりにまたも書きました
ずっと読み専だったんですけどー


楽しんでもらえればどうにか嬉しいです!