■ えいきゅうにかりておくだけだぞ。













「んーーー絶景かな、」

そんな親父くさいことを言ってからりと笑う男は、
俺の顎を掬って擽る
白い指先が顎の先を撫でたり、
咽元まですべり凹凸の部分に軽く爪を立てたりして遊ぶ
カウンターに肩肘ついて
頭をよりかからせる姿は気怠げで色気を醸し出している

「・・・・・・」
「おや〜ん、何も喋らないけど、どしたーん?」

どんなテンションなのか
ケラケラ笑いながら黙った俺を下から覗き込むように見上げては、
また笑う
何が楽しいのかそのままクスクスと笑い続けた

「まー立ってるのもなんだし、座ったら?」
「・・・・・」
「つーか・・・・座れ?」
「っ」

笑って細まった瞳が笑みとは違う形に眇められて、
軽い命令口調
それだけでぴくりと身体が恐怖に似た戦慄に揺れた
トントンとカウンターを指で叩いてもう一度即し
逆らうことを許されずに黙って座る

「何飲む?水、ウーロン、ミルク、水?」
「水を2回言う必要ねーだろ」
「え、アレ、言った?」
「言った」

あれれれーと寄りかかる側とは反対側に首を傾げて、
スチールから落ちそうになるところでカウンターの中にいた男が腕を伸ばして引き戻す
それすらにも笑う姿は、
完璧で典型的な酔っ払い
顔色が変わっていないから分かり辛いが、
手にするコップの中身とその様子で分かる
この人物が酒に弱いことを知識に入れておけば尚更だ

「それにココは酒を飲むところだぞ、何でアルコールを言わねーんだよ」
「これからこれからー」
「・・・・・」
「んじゃー・・・すこっち?うぉっか?びーる?かくてる?はいちゅう?」
「ハイチュウは菓子」

あ、そうだったと訂正された言葉に俺ってバカーと言って笑う
バシバシとカウンターの中の男の腕を叩きながら
叩かれてる男はさして気にする様子もなく叩かれるがまま

「ちゅうはいだ、ちゅうはい?あとー・・・焼酎も芋もこめもにほんしゅもあるぜよ?」
「酒の種類の方だけが取り柄の店だからな」
「他壊滅的だモンねー・・・・この味オンチの料理オンチめが!」
「男は料理できなくていいんだよ」

っけ、と言って手の中のコップをキュッキュと磨く
その様子を俺は何も言わずに見詰めた
いやむしろ言葉を挟む隙が全くナイ
何を飲むのか聞いてる割には、だ

「つーか脱線しすぎ!んで、めいじくんは何飲む?俺、うるとらばいおれっと」
「バイオレット・フィズな」
「そーそれ、つーかあんま好きじゃない」
「じゃー飲むなよ」
「色がね、キレイだったからさー気分?」
「つーかお前は家以外では酒飲むなよ」
「いーーーやーーー」

俺だって三十路過ぎた大人なんだぞ!!と怒る姿はそんな年には見えない
そんな久保田和泉は酔っ払っているのだ
蘇るあの時、である
記憶は新しいわけでもないが鮮明にあの時を思い出させる

「で、何飲む?すぐ決めて、何?何だよ?」
「絡むな、」
「え、あ、じゃー・・・ビールで、」
「バド?むしろチンタオいっちゃう?」
「チンタオ・・・・・いや、ハイネケンで、」

銘柄を言うと一瞬姿を消したカウンターの男、
今日で二度目の蓮水慶介が栓を抜いた瓶を俺の目の前に置いた

「じゃー俺、ゲーテ!!」
「・・・・は?」
ケストリッツァーシュバルツビア
「あぁ・・・・ほらよ、」

ホントに何でもあるんだな・・・・・
言われたものがすぐ出てくるなんて凄い通り越して変だ、絶対に
とか思っていたら半分ほど残っていた薄紫のアアルコールが蓮水氏の胃に消える
え、仕事中じゃなんいですか!?
ジッと見れば、
ニヤリと笑みが返ってきた・・・・・無駄に色男過ぎるな

「お残しはゆるしまへんで?」
「おばちゃーーーん!!」
「店で大声は上げるな」

ゴスッといい音が響いて久保田さんが頼んだビール瓶の底がそのオデコにめり込む
痛いと思う、普通に痛いと思う!!
酔って痛覚が鈍っていても痛いと思う!

「んだよー食べ物粗末のにすんなよなー」
「飲み物な、」
「揚げ足とんなよ」
「事実だから」

って言うかこの人たちは先ほどから漫才でもしているのだろうか?
と言うくらいに会話のテンポが速い
ほんとに挟む隙間がない
いや、見ていては飽きない
聞いていても飽きない
が、
俺は一体なんでココに呼ばれたのだろうか?
そんな気持ちを込めてため息を吐く
そしてビールを呷った

「わ〜〜お、素敵な飲みっぷりv」
「・・・・・・」
「和泉、惚れちゃ〜〜〜う!むしろ惚れたい!」
「・・・・・・は?」
「惚れちゃっていい?惚れていいよね?って言うか惚れさせろ」
「・・・・・いや、あの」

何でさっきっからお願いとか質問とかしてるのに、
最後が命令なんだろうか?
むしろ決定事項なんだろうか?
この人の特徴なのだろうか?
・・・・・それっぽいな、

「そして、めいじくんは俺に惚れろ」
「・・・・・は?」
「俺を愛せ愛し愛しまくれ!!」
「・・・・・」
「しかし俺は愛を誓えない」
「それはねーだろ」

呆れたように慶介さんが言う
俺も思う
いや、愛さないけどね

「だってー俺はもー一人に愛を誓ってますからねー」
「えっ」
「え、何、何でそこで驚くのめいじくん」
「えっいや、何か・・・・」

それは嘘だろうという気持ちと、
似合わないと思う気持ちと、
今まで俺に迫っててとか色んな人口説いててとか口説かれてとか、
そんなん見てきたから、
今更それ!?みたいな気がしてならない

「あの・・・・特定いるんですか、か?」
「えーーーいるよー」
「いるんだっ!?」
「いや、驚くのは無理ないな」
「マジで!?俺ってば一途なのにっ」
「「度の面下げて一途だよ(ですか)」」

思わず慶介さんと俺の言葉がハモル
致し方ないと思う
だって貴方、
ホントにどの面下げて一途とか抜かしてんだろうか?
不思議、
凄く不思議です

「いるんだ・・・・・」
「え、何?いたらショック?ショック受けちゃう!?」
「えぇ・・・・ある意味ショックですね、」
「やだっ和泉ちゃんてれty」
「いや、貴方の脳で繰り広げられている妄想でのショックではないですけれど」
「・・・・・・・・」

えーーーーと声なきがっかり感を訴えてきた
慶介さんは目線をそらして笑っている
って言うか肩震えてますから隠しきれてないですよ

「不特定多数を恋人に持ってそうなイメージあったもので」
「あのねー俺は生まれてこのかた恋人は一人しかいないですよ?」
「彼氏彼女は?」
「吐いて捨てるほど?」

ダメじゃん!
声を出さずに突っ込んでおいた
って言うか口に含んだビールを吐き出さなかった俺に拍手

「まーーそう言ったら一人だな」
「でしょ?」
「・・・・・・それもなんか言ってることと違うような・・・・」
「俺の心はただ一人宛にしか配送されません、って言うか送信?」
「お前電波か?」

毎日一人に向けて愛を送信!キャーすてきー!!と一人で悶えるその人を見詰める
遠い世界の人だから仕方ないんだな、うん

「でも、めいじくんにも種類の違う愛を今まさに送信中」
「電波障害でもあるんですかね、何も聞こえませんけれど?」
「・・・・・・・わぉ」
「言うねー」

苦笑いの久保田さん
含み笑いの慶介さん

「こんな所が、あの捻くれ者の心を鷲掴みしたのかねー」
「けったいな趣味だな」
「・・・・・・悪かったですね、」

きっと褒められてる訳ではないだろう言葉に憮然に返せば、
するりと伸びてきた指が、
耳にかかった髪を指先で弄んでは梳く行為を繰り返す

「良いかもー」
「・・・・・・」
「あの時も思ったけど、やっぱちょっと欲しいかも」
「お前もアイツらと変わらねーじゃねーか、」
「だって言うじゃない、ペットは飼い主に似るって」

一体誰のことを言ってるのか、
そして下手に聞き流していた方が身のためのような言葉に眉を顰める
ペットとか飼い主とか・・・・
欲しいとか、

「モノにしたら傍若無人が泣いて騒ぐかな?」
「泣き喚いて駄々捏ねるかもよ」
「見てみたくないソレ!?」
「いや、目に毒だろ」
「むしろ視界の暴力んじゃないですか?」
「俺、笑のタネむしろ笑い死に出来る」

あの人が子供のように床に寝そべって手足ばたつかせて騒ぐ姿なんて考えたくもないっ
脳みその中で考えたら確実に爆発するっ
あ、やべっ・・・・危うく思い描くところだった!!

「じゃーーーーそうだな〜」
「・・・・・俺をどうにもしないと言う選択肢は?」
「あるとは思ってないでしょ?」
「無駄な考えだモンな」
「・・・・ですよね、」

そうですよね、
ホントに言葉間違いなく飼い主に似ますねペット(部下)は
人の話しを聞かないと言うか
自分の考えを貫き通すとか、

「借りて置くってのは良いかな?」
「借りる?」
「そーー借りるの、俺がめいじくんで遊びたいなー可愛がりたいなー弄りたいなーなんて思ったときに」
「・・・・いや、おれ自身が遠慮したいd」
「ダメダメー俺が言ったら確実に遊ぶぜよっ」

遊ばせろ?って言うか遊ぶぞ?みたいな、
なんて言葉遊びをしながら

「ずっとずっと借りておいてあげる!」
「・・・・・・」
「ま、頑張れや」

新しいハイネケンが俺の目の前に置かれたのだった



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自分勝手な人に振り回される明治を書きたかった・・・・だけ、です(汗)
スイマセン
漫才みたいな、ね?
むしろそんなに喋ってないじゃん!!みたいな、ね?
裏切ってますね・・・・・
むしろ全体的に総ての話しが裏切ってますよね!?

ごめんなさい・・・・・
いやーしかし、
三日連続で勢いで書いています・・・・からかも?
方向性はあっても企画性が皆無でスイマセンっ
す、少しでも楽しんでいただけたなら・・・・・・!